二度目のデートとなった『映画デート』の日。
結局僕は、食事を一緒にして、彼女を駅まで送った。
翌日仕事だったということ、それに、初めて手をつないでそれ以上のことは望まなかったから。
というのは、半分嘘。
本当は、もっとずっと一緒にいたかったけれど、大切な時間は少しずつ刻みたい。
それが僕の本心だった。
実は、あのデート以来、僕たちはほとんど毎日会っている。
仕事中に理子ちゃんが銀行に顔を出してくれたり、お互い仕事が終わってからのわずかな時間を一緒過ごしているのだ。
そのうちのほとんどが一緒にご飯を食べて、しばらくどこかをぶらついて駅へと送る。
このパターンの繰り返し。
ところが、帰る時間になると理子ちゃんの機嫌が少し悪くなる。
おそらく......、うぬぼれじゃないけど彼女は帰りたくないのだろう。
もしくは、手をつないで以来、僕が何も行動を起こさないので、嫌気がさしている...とか。
どちらにしても、僕はそろそろ行動を起こさなくてはいけない。
そんなことを考えていた金曜日。
僕はある決断をした。
「明日は中華街にランチに行こう!」
そんなメールを仕事中に送った。
「長崎の?」
「なわけないじゃん!」
「ふふ。そうだよね。中華楽しみっ!」
理子ちゃんって、あんな顔して結構ボケをかますことが多い。
それは計算だったり、天然だったり...。
そんな彼女にいつも笑わされてばかりの僕だった。
そしてメールの最後に書かれていた一文が、僕の『決断』をより一層強いものにさせたのだ。
「今日のメール嬉しかったです。だって...いつも"行かない?"とか"どう?"って聞かれることが多かったから。でも今日は"行こう!"って言葉がとっても嬉しかったんです!」
土曜日。
いつものように駅で待ち合わせた僕たちは、横浜へと向かった。
理子ちゃんは、片手に横浜のガイド本を持っている。
「あのね、中華街だって思ったら嬉しくなっちゃって、お昼休みに本屋さんに行ったんだ。」
僕だったら、きっと家でこっそりガイド本見て研究して、デートで格好よく案内する手段を選ぶだろう。
しかし、理子ちゃんは違う。
恥ずかしいだとか、そんなことは気にせずに、今を楽しむ。
これが、僕には持っていない理子ちゃんのいいところだ、と思った。
「第一候補はね、このお店!」
いつもそうなんだけど、理子ちゃんがいろいろと決めて引っ張ってくれるので、本当に楽だ。
でも!
引っ張られてばかりというわけではない。
今日こそは!
男らしい一面を見せてやるんだ!
理子ちゃん第一候補のそのお店はすごく美味しかった。
その後も、買い物したり、ぶたまんを半分ずつ食べながら歩いたり...と、異国情緒包まれる空間であっという間に何時間も過ごした。
サッカー仲間と来る中華街は、どかっと食べておしまい。
何回も着たことのある中華街だけど、理子ちゃんと一緒だったら全く違う空間に生まれ変わるから不思議だ。
これもまた『恋愛マジック』なんだろうな。
中華街を満喫した僕たちは、コスモワールドに行くことになった。
「遊園地なんて何年ぶりかな...。」
「ウキウキするねっ。ジェットコースターとか好き?」
「あ...ちょっと苦手かな...。」
あー。こういう時に草食系男子の部分が出てしまうのだろうか。
「えー。私大好きなんだけどなー。一人で乗りたくなぁい。」
ふくれっ面になりながら、何か言いたげに見つめる理子ちゃん。
「い、一緒に乗る...よ。」
「いぇーいっ。」
はー。よりによって、ジェットコースターに乗るはめになるとは...。
ジェットコースター、お化け屋敷、3Dシアター。
理子ちゃんは疲れを知らず、右に左にと足を運ぶ。
僕も体力だけはあるつもりだったけど...、ジェットコースターにかなりの体力を奪われたようで、少し疲れ気味。
冬の一日は、陽がかげるのも早くて、夕方の横浜はあちこちがライトアップされて、すっかりいい雰囲気になった。
「観覧車乗ろうよ。」
僕が彼女を観覧車に誘ったのは意味がある。
今日一日、この観覧車のために過ごしたようなものだ。
「ねえねえ。透明なやつがあるんだって!あれにしない?」
シースルーコンドラ?いやいや駄目だろう。
あんなのに乗ったら、今日の計画が台無し...。
なんと言って回避するか...。
「いや、あれはやばいんじゃない?下からスカートの中見られるよ。」
言った瞬間、ちょっと親父くさい文句だと失敗した!と思ったけど
「あっ、そうだ。それはやだー。じゃあ、今度スカートじゃない時に乗ろうね。」
案外すんなり受け入れられた。
少し列に並んだあと、僕たちが乗るゴンドラのドアが開けられた。
「きゃー。ドキドキする。」
そう言いながら、向かい合わせに座るのかと思ったら、理子ちゃんは僕のとなりへ。
「なんか傾いてるけど...。」
「だって1人は怖いもん。」
だよねぇ......。
「確かこれって世界一じゃなかった?」
「うそ?」
「うん。ギネスに登録されたはず。あ、でもどこかに超されたかなぁ。」
「結構高いもんねー。今4分の1だよ!」
もうすぐてっぺんだというのに、理子ちゃんのおしゃべりはなかなか止まらない。
「あっちかなぁ。ディズニーランド。」
海を見ながらそう言っている理子ちゃんが振り向いた瞬間、僕はそっとキスをした。
突然のことでびっくりしていた彼女が急に黙り込む。
「理子ちゃん。知り合って間もないけど、こんな僕と付き合ってくれる?」
そう。
僕は、彼女にまだ付き合おうという言葉を伝えていなかったのだ。
さっきまであんなにおしゃべりしていた彼女が、黙ったまま『コクッ』とうなづいた。
「ディズニーランドに一緒に行こうね。」
僕がそう言うと、顔を上げてにこりと笑った。
ジェットコースターで奪われた体力も、僕の決断を実行してオッケーをもらったことで、すっかり取り戻したようだった。
二次会での出逢いを『キッカケ』に、この僕たちの新しい道が始まったのだ。