タイトル

第9話 まさかの別れ

 僕が理子ちゃんと付き合い始めてから、早いもので8ヶ月が過ぎ、初秋を迎える今、サッカーシーズンもピークを迎え、ほとんどの週末が遠征や練習などで潰れている。
 そんなサッカー漬けの日々で理子ちゃんは納得しているかというと、正直納得していないようだ。
 僕がサッカーを好きだということは理解している。
 たがらこそ、毎週の練習にも理解を示してくれているのだが...。


「またサッカー?」

 なんて言葉が喧嘩の原因になることが増えてきた。

「私と仕事どっちが大事?」
 
 なんて発言が世間ではよく取り沙汰される。

 しかし僕の場合は、"彼女とサッカー"。
 はっきり言ってどっちも大事だし...、彼女とはずっと付き合っていきたいし、サッカーだって大事。
 比較するものでもないんだけど...。

「しょうがないじゃん。」

 僕はこの言葉しか返せなかった。
 個人プレーなら休んでも迷惑かけないけど、サッカーは11人でするものだし...。

 僕がこの「しょうがないじゃん」という言葉を軽はずみに使うことが彼女は許せなかったんだろう。


 ある土曜日、来るはずの理子ちゃんがなかなかやって来ない。

 「仕事帰りに、家に寄るからね。」

 というメールを受けたのは昨日。
 いつもなら、土曜は7時には家に着いているのに...。
 おかしいなと思いながら、メールをしてみたけど、待てど暮らせど返事はない。

 心配になって、電話をしてみるが、留守電だ。
 仕事が長引いているのかと思って、とりあえず連絡を待つが一向に来ない。

 9時が回ったのでもう一度電話をしてみると、長いコール音のあと、ようやく電話に出た。
 
「もしもし?どうした?」
「.........」
「何かあったの?」
「.........」
 
 何度呼びかけても、黙っている。
 その時小さな声で彼女が声を出した。

「......よね...。」
「えっ?」
「拓朗君、サッカーで忙しいんだよね...。」

 一体何が言いたいのかわからず、返事に困っていると

「元カノと会う時間はあっても、私と会う時間はないの?」
  
 いきなりだ。

「偶然会っただけって言ったじゃん。」

 そう。確かに僕は一昨日元カノと会った。
 その事も、理子ちゃんにはきちんと告げていた。

 「会っただけなんてうそつき!バイクのステップ降りてるじゃん。送ったんでしょ!」

 いきなりのこの発言に、僕は返す言葉がなかった...。

 あれは一昨日のこと。
 会社を出たところで、元カノが待っていた。

 もう何年も会っていない元彼女が僕のことを待っていたのだ。

 その事を、僕は理子ちゃんに報告した。
 ただ、同時にひとつの嘘をついていたのだ。

 「偶然ばったりと道で会って、少し話しをして別れた。」

 と。


 絶対にばれるはずのないと思っていた嘘を、彼女はこんなにも早く見破った。
 恐らく、さっき僕の家に来た時に、普段はたたんであるバイクの後ろ座席のステップが降りているのに気付いたのだろう。

 「どうして嘘つくの?どうして元カノとは会う時間があるのに私とは...。」

 電話口で興奮気味に話しながら、理子ちゃんはたぶん涙を流していたと思う。
ときどき鼻をすする音が聞こえる。

 僕はといえば、いいわけも弁解も何の発言すらできずにただ携帯を握りしめているだけだったのだ。
 理子ちゃんは、今まで溜めていた僕への不満すべてを言いつくして電話を切った。

 僕はただ呆然とソファーに座っているだけ......。


 元カノは、今付き合っている人と結婚をするそうだ。
 元カノが僕の前にあらわれたのは、今の婚約者との結婚式の準備がなかなか進まなくて、マリッジブルーに陥っていたから。
 
 「ちょっと会いたくなってね。」

 という元カノは、単なる愚痴を僕に言いに来た。
 
 「だってね、仕事ばっかりで式の準備は私に任せっぱなしなんだよ!!」

 愚痴を言いつつも、彼女の笑顔が"幸せ"で満ち溢れている。
 もちろん、僕はその愚痴を聞いてあげて、結婚を祝福した。
 女性というものは、こういう愚痴を元カレに言いたがるものなのか、はたまた結婚前に元カレに会いたくなる習性があるものかわからないけど、これもマリッジブルーのせいなんだろう。
 さんざん話した揚句、"ストレス解消に"とバイクの後ろに乗せて走ることを提案したのは僕。
 少し後ろめたい気持ちもあったが、元カノを後ろに乗せて、レインボーブリッジまで走った後家まで送った。

 たったそれだけ。
 それ以上のことは何一つないのだが、これが大きな火種となってしまった。

 僕は別に、元カノに会ったことに抵抗はなかった。
 もちろん、元カノに恋愛感情はないし、あっさりとしたもんだ。
 それが草食男子の特徴なのかわからないが、僕は抵抗なく会える。
 だから、元カノに会ったことも理子ちゃんに言った。
 黙っているよりは...と思ったのだが、その結果がこれだ。
 
 もちろん嘘をついていたことは僕が悪い。
 もしかすると、会ったことを言わなければ、元カノをバイクに乗せたことを理子ちゃんが勘づかないで済んだかもしれない。

 良かれと思ってついた嘘があだになるとは...。
 後悔してもしきれなかった。


 
 翌日に届いた彼女からのメール。


 『拓朗君は優しいと言われると思う。でもその優しさは、人を傷つけることだってあるんだから。もう私たちダメだと思う......』


 この文章を最後に、僕にまさかの『別れ』がやってきた。

 
 僕がサッカーに夢中になって、理子ちゃんとの時間をおろそかにしていたこと。
 元彼女とのことを嘘をついていたこと。

 この『別れ』となった原因はすべて僕にあって、理子ちゃんは何一つ悪くない。
 今まで、理子ちゃんから送られていたサインを

「しょうがない。」

 のひと言で済ませていたのは僕だ。

 もっと早く彼女のサインに気付くべきだったのに...。
彼女を泣かせてしまった自分に情けなく、言葉が足りなかったことを悔やみながら、でも彼女の気持ちがもう取り戻せないことを、僕は悟った。


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